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空気が澱む

 空手の稽古といっても、毎回清々しい雰囲気の中で出来る訳ではありません。人が集う道場という場所はまさに生き物であり、指導していても『今日はみんなの反応が良いな』という時もあれば、『今日は全然集中出来てないな』と感じる時もあります。
 道場には大勢の道場生が集まりますから、各々に個人的な事情があることは私にもよく分かります。嬉しい事があった人、逆に嫌な事があって虫の居所が悪い人、本当に色んな人が道場にやって来ます。
 まあ、嬉しくて浮かれている人には『油断してつまらない怪我をしないように』と注意する程度ですが、問題なのは負の感情を持ち込む人です。そういう人はその負の感情を周囲に撒き散らしてしまいます。すると、道場は途端に殺伐とした空気で満ちていきます。
 本来感情を道場や稽古に持ち込むのはルール違反です。日常の雑事の一切を切り離して自分を研く場所が道場であり、その手段が稽古なんです。道場は道場生全員にとってそういう大切な場所のはずですから、その大切な場所や機会を個人的な事情で汚すのは、止めてもらいたいです。
 もし、『今日は無気力で稽古をやる気が出ない』『今日は自分の中に抑えきれない感情があって、その感情が稽古中に暴走しそう』という人がいるなら、真っ当に稽古したいと考えている道場生のために稽古への参加は全力でお断りします。そんな気持ちで稽古に参加することは一緒に稽古する仲間に失礼です。決してその人を中心に道場が回っているのではありません。
 そうは言っても道場生は私自身を映す鏡ですから、そういう雰囲気で指導を終えてしまった日には自分の力不足を痛感して稽古後にひとりで反省しています。
 私は、道場は道場生全員にとって厳しくも心地良い場所であるべきだと考えています。